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喉はガラスの破片に覆われているかのようで、ひび割れた唇は焼けるように痛かった。眼球はもはや彼女に従わず、焦点を合わせることすら叶わない。奴らには先に進むだけの時間を十分に与えたはずよ。
シヴィアは大きな岩の影から顔を覗かせた。隊商は未だ泉に留まっており、先へ急ぐそぶりも見せない。
なんでよりにもよって、クタオン族なのよ。シヴィアの命を狙う部族は数え切れないほどあったが、その中でも特にしつこいのがこのクタオン族であった。
今すぐにでも古い川床から上がり、旅を再開してくれないものかと祈りながら、シヴィアは隊商の面々を観察した。五、六人の男を相手にできるだけの力が自分に残っているかどうか、肩を回し見極める。やれるとしたら、奇襲する他にない。
あの忌々しいノクサスの犬め、この私をはめるなんて…
シヴィアは頭を振った。今はそんなことを考えている場合ではない。平静を取り戻さなければ。脱水症状で思考力が落ちているんだわ。ああ、どうしてもっと水を用意してこなかったのかしら?
街には水が溢れかえっていた。いにしえの者が命令すれば、彫像からは滝のように水が流れ出た。あいつが私の傷を癒してくれなければ、私は死んでいた。それからシヴィアには理解することのできない古い言葉を発しながら、周囲の寺院の再建を再開した。砂に覆われた滅んだ街で、ずっとブツブツ独り言。あの魔法使いがすべてを砂の下に元通り沈めてしまうか、あいつに借りがあると思われる前にさっさと消えなきゃ。
唾液を飲みこむことすらシヴィアの喉を激しく痛めつけた。シヴィアは再び泉を見やったが、その茶色く濁った水たまりの周りには未だ隊商がたむろしていた。
一日くれてやったのよ。シヴィアは自分に言い聞かせた。私か、奴らか、どちらかが死ぬ。数滴の水か、数枚の金貨を賭けて。それが砂漠での生き方。
一人目の衛兵めがけて飛び出しながら、シヴィアはクロスブレードを構えた。果たして奴が振り返る前に、間に合うだろうか?シヴィアは距離を目算した。十四歩……十二歩……十歩……男に決して音を立てさせてはならない……二歩。シヴィアは衛兵に襲いかかった。彼女の刃は男の喉元に完全に沈み込み、そのまま肩へと振り下ろされた。
シヴィアが男を地面に叩きつけると同時に血が噴き出した。跳びかかった勢いのまま、彼女は衛兵を後ろの岩陰に引き込む。男の腕を抑え込むと、その死んだも同然の男は、その事実を拒むように足掻いていた。男は最後の一息とともに大量の血を吐き、シヴィアを真っ赤に染めた。この男が死ぬ必要なんてなかったのに。
シヴィアはまた、カシオペアの刃を思い出していた。あのノクサスの蛇女は、私の背中に刃を突き立てた……そうして私は一度死んだ。それには何か、意味があるはずよ。
遠くで地響きがした――馬?それとも砂壁が崩れ落ちる音?それが何であるか考える時間など今はない。シヴィアは硬い石が転がる地面を、這うように移動した。衛兵が姿を消したことに隊商が気づくまでそう時間はないわ。次の標的は尾根に沿って歩いていた。男が岩棚の端から離れる前に、息の根を止める必要があった。完璧な一撃が必要よ、シヴィア。彼女はクロスブレードを放った。
放たれた刃は二人目の衛兵に命中し、男を真っ二つに引き裂いた。空を斬る刃はさらに上昇し、頂点に達してスピードを落とすと折り返した。シヴィアへと戻る途中、クロスブレードは三人目の男の首を切り落とした。もう一度投げる時間はない。刃はその弧を描ききると、泉の中心に向かって落ち始めた。落ちきる前に、うまくキャッチしなくてはならない。立ち回りはいつも通り。武器をその手に取り戻し、前転しながら残り三人を一振りで仕留める。
だが走る途中、シヴィアの足は急に重くなった。痛む肺は、十分な空気を取り込むことができていない。三十歩。二人目の死体が岩場に打ち付けられる前に、彼女は距離を詰める必要があった。二十歩。足がつり、言うことを聞いてくれない。十五歩――足がもつれ、シヴィアは崩れ落ちそうになった。まだ、まだよ――。
すると、シヴィアの計算よりも速く、二人目の男の死体が落下して岩を叩いた。その音を聞き逃すクタオン兵ではない。
たった一度の過ちで十分だった。クタオン族は砂漠の民である。シヴィアが次の一歩を踏み出すよりも先に、生き残りの衛兵たちは武器を抜いていた。
シヴィアのクロスブレードは、クタオン兵らとシヴィアの間の水溜まりに落ちた。相手から五歩、シヴィアから十歩の距離だった。
いける――シヴィアの体に叩き込まれた動きは、彼女を前へと押し出そうとした。だがシヴィアは倒れそうになりながら移動し、滑りながら急停止した。
十分な水の貯えがなかった。攻撃を仕掛けるまで待ち過ぎた。距離を見誤った。こんなつまらないミスはしないはずよ。なのになぜ?シヴィアは心の一部では答えが分かっていた。カシオペアのダガーが、シヴィアの背中に突き立てられた次の瞬間を思い出す。シヴィアは、ダガーの刃そのものを感じることはなかったが、突然予期していなかった重みを感じ、呼吸が奪われ、肺を押しつぶされるような感覚を味わった。
「あんたらが私に気づく前に、お仲間三人の命を頂戴したわよ」シヴィアは咳き込みながら言った。
「武器がないようだな」もっとも体格の良いクタオン兵が言った。
「あんたの血が、水に入っちゃ困るからね」シヴィアは強がった。
残った三人の男たちは互いに視線を交わした。私が誰だか気付いたようね。
「一年前、たった金貨ひと袋のために、私はあんたらの族長と精鋭を二十人ばかり殺した。それだけの命にしてはずいぶん安い仕事だった」シヴィアは男たちの目を見て言った。クタオン兵たちは水場から離れ、シヴィアを取り囲もうとしていた。
「あんたらの族長と手下たちを殺して得た金、どうしたと思う?」シヴィアは言った。「賭博で一晩にしてなくなっちゃったわ」
「仲間の命、そして貴様の侮辱。報いを受けてもらうぞ」もっとも体格の良いクタオン兵は言った。
「あんなはした金のために殺すべきじゃなかった――」シヴィアは言った。「お水二、三杯のために、あんたたちを私に殺させないで」
クタオン兵のリーダーは張りつめた様子で武器を持ち直した。
「いい?あんたがピクリとでも動く前に、私はその刃を取り戻すことができるの」シヴィアは言った。「私があの武器を手にすれば、あんたらは死ぬ」シヴィアは、目の前の茶色く濁った水に一瞬視線を投げて言った。「あんたらの命は、そんな泥水よりは価値があるはずよ」
「では我らは誇りをもって死のう」もっとも体格の良い男はそう言い切ったが、他の二人には迷いがあるようだった。
「あんたが仇を討ちたいっていう二十人の男たちを殺すのに、私、あの武器が必要だったかしら?」シヴィアは警告する。「ましてやたった三人くらい……頭数が足りてないよ」
三人の男は躊躇っていた。シヴィアの評判を彼らはよく知っていた。他の二人がもっとも体格の良い男に下がるよう促し、三人は馬の傍らへと戻った。
シヴィアはじりじりと水の方へと近づいた。
「クタオンの民を引き連れ、必ずや復讐してやる」
「これまでにも大勢がそうしようとしたわ」シヴィアは言った。「今のところ、うまくいった試しはないみたいだけど」
シヴィアは口の内側で腫れた舌を丸めた。早く喉を潤したかった。体の全ての細胞が、今すぐ水面に跪き水を口にしろと命じていた。でも、クタオン兵たちが向こうの砂丘を超えるまで待たないと。
男たちは鞍に跨り馬を走らせた。すると、再びあの妙な地響きが聞こえてきた。音は大きく、そしてさらに大きくなっていった。馬の音でも砂が崩れる音でもないわ。シヴィアは音が聞こえてくる方を見やった。古代の川床を、青い水の壁がものすごい勢いで迫ってくる。あれは、街から溢れた水だわ。
水流がシヴィアにぶつかる直前、彼女は冷たく湿った空気が駆け抜けるのを感じた。それはまるで、突然の口づけのように彼女を動揺させた。
最初の波で、シヴィアはあと少しで足元をすくわれるところだった。衝撃は痛いほどの冷たさを伴ったが、彼女の脚を、腰を、水が包むにつれ、それはひんやりとした心地よさに変わった。シヴィアは水の流れに身を任せ、体の汚れを落とした。水に自由に漂わせた髪から、砂漠の砂粒が洗い落とされていく。
私は一度死んだ。そこには何か意味を持たせなくちゃいけない――。