Short Story
化物

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化物

リストボルト・ランチャーに残された矢はあと一本。ヴェインが負った三ヶ所の傷口からは血が溢れ出ている。一晩中追い続けていた、かつて人間だったケダモノにたった今地面に叩きつけられ、彼女はまさに首を噛み切られようとしていた。

予想よりもマシな展開だった。

殺しの行為に興奮して金切り声を上げる人獣の大きな口から、粘つく液体が滴り落ちる。ヴェインは暗視ゴーグルで闇の中をスキャンしてみたが、近くには武器も遮蔽物もない。ケダモノがデマーシアのハンノキの森に姿をくらますことがないよう、この空き地まで追跡したうえで狩る手はずだったのだが、その決断は彼女からも身を隠す術を奪ったのだった。

だがそれでいい。簡単に殺せてしまっては面白くないのだ。

ケダモノがヴェインの両肩を掴み、その顎を開くと、何列にもズラリと並んだ鋭い歯が露わになった。たとえこの大アゴで噛まれて死ななかったとしても、その凄まじい口臭で絶命するだろう。

ヴェインはすみやかに次の一手を模索した。ケダモノの噛みつきをかわす?問題が少し先送りされるだけだろう。ふざけた本数の歯を持つ口のど真ん中に蹴りをくれてやってから、最後のリストボルトでビクビクと蠢く眉間を狙い撃つ?針山のように立ち並ぶ牙の間を縫って矢が的に届くかどうかは怪しいところだ。あるいは、派手で乱暴で、少々イカレた一手に賭ける?

ヴェインは最後の手を使うことにした。

ガバッと開いたケダモノの大口に、腕を根元まで突っ込む。カミソリのように鋭い歯が拳と腕の皮膚を切り裂いたが、彼女はニヤリと笑った——自分とケダモノの理想的な位置関係だ。ヴェインの腕を噛み千切ろうと、ケダモノの顎に力がこもるのを感じる——…させるわけないでしょ。

ヴェインはケダモノの口の中で腕をねじり、リストボルト・ランチャーの向きを変え、その最後の矢を口蓋にあてがう。手首をひねると撃鉄が引かれ、銀の矢尻がケダモノの頭蓋骨を貫き、その脳ミソを突き崩した。

始まった時と同じく金切り声は唐突に止み、ケダモノの体は力なく草に覆われた土の上に崩れ落ちた。ヴェインはその下から這い出ると、これ以上切り傷を増やさないようにケダモノの口から腕を引き抜こうと奮闘したが、彼女の手首はがっちりとそいつの頭蓋骨にはまり込んで外れなかった。

このまま人獣の牙だらけの口から力づくで腕を引き抜き、指を何本か失うか——それともいっそ、さらに奥まで腕を突っこんで脳天をぶち破り、鳥の叉骨(さこつ)を使った運試しのように顎をへし折るか。

いつもと同じく、彼女は後者を選ぶのだった。


忌まわしいバケモノを殺すのは面倒ではない。面倒なのはそいつを新妻のところに運ぶことだった。

いや、もう未亡人か。

未亡人のセリナは想像を絶するほどの美女で、炎に照らされた小屋の暗がりの中ですら、その髪はきらめいていた。顔に刻まれたいくつもの深い引っかき傷も、そして頬を流れ落ちる涙でさえ彼女の美を損なうことはなかった。

ヴェインは女の脚元にできるだけ慎重に亡骸を横たわらせた。その肉体は怪物的な変身を遂げたうえに、自ら付けた傷と自ら付けたわけではない傷で破壊されており、人というよりも手足と肉塊の寄せ集めという有様だった。

「苦しまずに…済んだのでしょうか…?」すすり泣きながら、未亡人は尋ねた。

残念ながら、そうではなかった。ヴェインはこの男を追って、東部デマーシアの外に拡がる森の中のねぐらまで足を延ばしていた。変身を途中で妨害することには成功した。目玉は増え大きくなり、口は虫のような大アゴになり、片手は鋭利なハサミになり——そして、そいつは怒り狂っていた。

ヴェインが頭蓋骨をぶち破った時に手首にへばりついた脳ミソの塊が、ぼたりと落ちた。

「あ…」ヴェインは口ごもった。

「ああ、あなた」セリナは膝からくずおれ、変身した夫の亡骸を抱きしめた。「いったい、どうしてこんなことに?」

ドレスが血で汚れることにも気付かず、あるいは気にも留めず、未亡人が夫の頭だった部分の残骸を胸に抱きしめている。その傍らにヴェインは膝をついた。

「ケダモノに変身する人々がいる。時には、自分の意志とは関係なく」ヴェインは言った。

死体の膨れ上がった手を取り、ざっと目を走らせる。「彼は後者のグループだったようね」

未亡人は怒りに目を見開いた。

「誰かが彼にこんなことをしたと?誰が——どうして——」

未亡人は言葉を失い、涙にくれて亡骸にすがりついた。

「獣人——変身者たち——には、連れ合いを求める者がいるわ。あるいは混乱や怒りに駆られて襲い掛かり噛みつくだけの、ただ野蛮な者もいる。他に私が見てきたのは、ただ退屈していて面白そうだからやる連中」女の頭にぽんと手を置いてヴェインは言った。「さもなければ…ただ、食べるために」

未亡人は顔を上げ、涙をぬぐった。

「わ——わからないわ」

ヴェインは未亡人を憐れむように微笑んだ。

「連中が誰かを食べようとして、逃げられることもある。食べようとした相手に意図せず因子を与えていた場合は、いずれ変身することになるのよ」

未亡人はヴェインをじっと見た。ヴェインが未亡人の涙でいっぱいの目から髪の毛を払いのけると、腕のリストボルト・ランチャーがカチリと鳴った。

「私が最後に殺した獣人が言うには、自分を愛している相手ほど美味しいそうよ。赤らんでる時ほどジューシーなんですって。ハネムーン中だったりしたら一体どれだけ美味しいのかしらね?」ヴェインは思いを巡らした。

未亡人は泣くのを止めた。その目が険しくなる。

「彼はあなたを愛していたのよね」ヴェインは言った。

未亡人は立ち上がろうとしたが、ヴェインは女の髪を一房つかみ、強く引いた。

「あなたに噛まれて、驚いたでしょうね。怯えた人々の行動は予測が困難。そして、自分が愛する誰かに裏切られるほど恐ろしいことはないわ」

ヴェインは手首をひねり、リストボルト・ランチャーの撃鉄を起こした。

「あなたは、誰に?」

憎しみを込めてにらみ返す女の目の色はゆっくりと深紅に変わっていく。

「誰でもないわ」岩でナイフを研ぐような声で彼女は言った。「私は最初から、こうよ」

ヴェインは笑った。

「なぜわかったの?」片手を背後に回しつつ、未亡人は尋ねた。

「噛み跡が首の後ろじゃなくて前にあった。しかも他のどこにもなかった。つまり信じてる誰かに襲われたってことよ。どうぞ、やってみたら」

未亡人の動きが止まる。

「やってみたら…?」

「背中で変化させた、あなたの自慢のハサミで。やってみればいい。あなたが私の手を切り落とすのが早いか、私があなたの眉間を射抜くのが早いか、試してみましょう」ヴェインは言った。

未亡人はしぶしぶと、ハサミを引っ込めた。万事休す、だ。

「どうして?」

「何が、どうして?」ヴェインは聞き返した。

「どうして、ただ私を殺さなかったの?どうしてこんな…意味のない小芝居を?」

ヴェインは笑った。狡猾で、陰険に。

「私の読みが正しいことを確かめたかったから。彼のパニックと恐怖をあなたにも味わわせたかったから。でも、一番の理由は…」

ヴェインは手首に力を込めた。金属のバネが音を立て、冷たい6インチの銀の矢がバケモノの脳を貫いた。未亡人は白目をむくと、石の詰まった袋のように床にどうっと倒れ込んだ。

「楽しいからよ」