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へへッ、来てやったぜ。覚悟しなゾウン、このフサフサのオレ様がドッカーンとブチかましてやるぜぇ!
ピルトーヴァーで高慢ちきな恩知らずどもに高級火薬を売りさばく間、ハイマーディンガーはあの馬鹿げた魔法でオレの正体を隠させて、やりたいようにさせてくれなかった…おかげでまったく暴れ足りないぜ。
しっかし、ジンクスの話は本当なのか?こんな薄暗くてクッサい地下都市に大暴れできる場所がホントにあるのか?
まあ、見てみるとしよう。えーと、どんなところにいるかって?ありきたりな建物があって、ありきたりな建物があって、ちょっとだけデカいありきたりな建物、爆弾工場があって、またありきたりな建物──え、何だって?
爆弾工場!?夢っていうのはホントに叶うもんなんだな!
いや泣いてなんかないぜ。ゾウンの灰色の靄が目に入っただけさ。
ああまったく、あの工場の中にあるモノのことを思うだけで…それにしても、ごく普通の建物だな。地味すぎるくらいだ。ピカピカの照明もキラキラの看板もないし…レンガと鉄でできたボロ家じゃないか。こいつは爆弾がどうやって作られるのか誰も気にしちゃいないようだな。それに、静かだな…ハッ!そうか、爆破実験のための防音壁があるんだな!それなら何としても潜入するしかないな!よし、極秘の通路があるに違いない。それか、正面の壁をぶっ飛ばさないといけないとか。じゃなければ──
あれ…ドアだ。
待てよ、何だこれ?
立ち入り禁止
ふざけるな!なんで?どうしてだ?こんな飛び切りの場所を使わないなんて、どういうことだ?爆弾作りをナメてるのか?工場を永久に閉鎖するなんてどこのどいつの仕業だ?でもって、あの音は何だ?
ふーむ、この鍵のぶっ壊れ方は普通じゃないな。どうもこのドアは無理やりブチ破られたようだな。頭を突っ込んで見てみるか…
機嫌が悪そうな若い人間が二人。爆弾はない。空っぽの部屋に人間がいるだけだ。萎えるな。まあ少なくとも、オレには気付いてないが。
「がっかりだぜ」って…片方のやつはオレと同じくらい落ち込んでるようだな。「ここには爆弾がゴマンとあるって言ってたよな?隅々まで探したっていうのに一発もないぞ!」
それ以上聞きたくないね。胸が痛むじゃないか。
もう一方が中身のない木箱を蹴り飛ばす。「もう片付けられてるなんて、どうして俺に分かる!」
こいつら、二人してドアの注意書きを読まなかったのか?まったく、人間ってのは何も見ちゃいない──
「そんなのどうでもいい」最初のやつが溜息をつく。おいおい。オレはまだどうすれば分かるか考え中だったんだぜ。失礼だな。「つまんねえ。帰るぞ」
おっと、先を越されちゃかなわん。今日は相手にしてるヒマはないんでな。じゃあな、ガキども!
まったく、信じられないぜ。地下都市に来てしょっぱなに爆弾工場を見つけるなんて!しかも爆弾専用のな!オレの家になってたかもしれない場所だぜ。でも見つけたのは壊れちまった夢の家…
こいつはどうにかしないとなぁ。ああ。そうだ。そうしよう。それが正しいんだ。あそこはそのために作られたんだからな…
あの場所を爆弾で一杯にしてやる!
やあやあ!オレの研究所へようこそ。いや、ジンクスの研究所だ。ゾウンで落ち着けるまで、オレはここに泊まらせてもらってる。ジンクスはオレのことを自分の頭の中の存在だと思ってるようだし、邪魔にはなってないはずだ。それに、あいつのスクラップの山とそこら中に散らばったガラクタを見る限り、毛の生えた生き物はオレだけじゃないと思うぜ。
ああ、これか?これは今取り組んでるヘクス爆薬だ。もちろんオレがデザインした。
こいつらを使えば、あのボロ工場に相応しい最後を演出できるだろう。ちょっとした敬意を持って見送ってやらないとな。
あのままにしておくことはできねえ。また何も知らない爆弾愛好家がやって来て、そいつらが期待を膨らませた挙句にこれっぽっちの火花も見られずに胸破れるってのもあんまりな話だからな。あの日はジェットコースターみたいに気分がガタ落ちだったからな。
そうならないように、オレがあの場所をお手製の爆弾でいっぱいにして、小型の連発花火みたいに爆破させてやる。ピカッ!ドッカーン!シューッ!ピカッ!ドッカーン!シューッ!ってね。工場全体が大爆発して崩れ落ちるまで何発もだ。
こいつは「チェーンスモーカーズ」っていうんだ。
もうすぐ完成する。ここをこうして、こっちをこうして。これで…完璧だ。
さっそく吹っ飛ばしに行こう!
よし、また工場に来たぞ。まったく、役立たずな「立ち入り禁止」サインめ。
可愛い「チェインスモーカーズ」もみんな定位置についてるし、あとはパパの前で実力を披露するだけだ。
でもジグス様ならこう言うね。自分の才能を注ぎ込んだブツが実際に爆発するところを見ないで、どうやって楽しむっていうんだ?って。オレも同じことを考えていたよ。そこで、オレたち皆のために特別なご褒美を用意した。
この「ドデカイクラッカー」で、最高ののぞき穴を作ってやる!
ようし、いよいよボタンを押す時間だ!3…2…1…どデカくドッカーン!
…まであと60秒。
あれ?その前にここから抜け出さないと──自分を吹き飛ばすつもりはないぜ!
急げ、急げ、急げ…よし、これでいいぞ!身を隠すのにちょうどいいガラクタの山がある。距離も鑑賞にぴったりだ。でそろそろ…ドッカーンと!
いやまだだ。あと40秒残ってる。通りを渡るのに、そんなに時間はかからなかったみたいだな。
どうしてヨードルは道を渡ったのかって?そりゃ反対側に行くため…えっ、おいあのガキども、またここに来て何してるんだ?!今すぐそこをどかないと、顔面めがけて壁が吹っ飛んでくるぜ。行け。行けったら!
全然動かないな。それどころか、壁にスプレーで絵を描き始めたぜ。やれやれ…
「おーい!」オレはガラクタの山の後ろから叫んでやる。「ガキども!そこから離れろ!」
よし、こっちを向いた。見えるか?ありのままのワイルドジグスだ。いやだがガキどもはまだ同じところに突っ立ってる。
「どうした?ヨードルを見るのは初めてってことか?そんなことより、本気でそこをどかないとヤバいぞ!怪我するぜ!」
こいつらまさか…?ああ、間違いない!オレのことを笑ってやがる!そういうことなら何もしてやらねえからな。勝手に吹っ飛ぶがいいさ!ジンクスならそうするだろうな。
ああそうさ、あいつはサイコパスだ。
ああクソ!あと10秒!
気が付いたらオレは走ってた。憎たらしい最下層パンクどもに向かってまっしぐらだ。建物に押し潰されるよりは、ヨードルにタックルされた方がマシだろう。これはオレの口癖だ。
ガキどもはもう笑ってない。デカい方が口を開く。「一体何を──」
「時間がない!どけ!」
ドッカーン!
壁が吹き飛んで、見ればオレたちは通りの反対側に叩きつけられてる。
よし、そうだ!ぜーんぶ爆発しろ!
ピカッ!ドッカーン!シューッ!ピカッ!ドッカーン!シューッ!
総毛立つぜ。無数の稲妻が建物の至るところにぶち当たって、レンガが崩れ落ちる。煙が立ち込めて、見物に来た近所のやつらの顔を曇らせている。
ピカッ!ドッカーン!シューッ!
待てよ。どうしてこいつらはオレのアート作品じゃなくて、オレの方を見てるんだ?
ピカッ!ドッカーン!シューッ!
屋根がきれいさっぱり落っこちた。これこそ魔法のショーだ。いやいや、さっきも言ったように、これは灰色の靄のせいだからな!泣いてなんかないぜ。
ピカッ!ドッカーン!シューッ!ピカッ!ドッカーン!シュシュシュシューッ。
ハッハー!いいぞ!愉快爽快。思わず踊っちまうぜ。カンペキだったぜぇ!
二人のガキどもはと言えば、オレがやつらのばあちゃんに平手打ちでも食らわしたかのようなツラでこっちを見ている。まあゾウン人には崩れ落ちる建物なんかより、フサフサの生き物が小躍りしてる光景の方が珍しいんだろう。
好きにすりゃいい。近くに行って見てみよう。
オレの「チェインスモーカーズ」が期待通りに力を発揮したようだ。頑丈だった建物が、今じゃ黒ずんだ瓦礫の山だ。役立たずの「立ち入り禁止」サインが屋根瓦の瓦礫の下から突き出ている。記念にあいつを拾って研究所に持って帰るとするか。
ピカッ!ドッカーン!
うわっ!小型ヘクス爆薬の一つが着火せずに、オレが最前列の特等席に来るのを待ってたぽいな。体に火が付いてるみたいなんだが──
「イィィハァァーッ!」
──空を飛んでるぜ!──
「あぁぁぁぁあっはははーっ!」
──煙が尾を引いてるな──
「あーっ、あっちーっ!それにくすぐったいな!でもやっぱりアチチチ!ハハハハハハハ!」
──見物客はみんなフサフサのロケットに釘付けだ。
「いいか、ガキども!爆弾ってのはこうやって作るんだぜ!」